『宴の身体』/芸能の地層

『宴の身体』という本を読んで思ったことなどいくつか。著者の松岡心平という人は、「橋の会」で能の上演にも積極的に関わった人とのこと。宴の身体―バサラから世阿弥へ (岩波現代文庫)作者: 松岡心平出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2004/09/16メディア: …

『旅する巨人』/海の民の遺産

宮本常一と渋沢敬三という二人の巨人の「交差的評伝」とも言える佐野眞一著『旅する巨人』を読んで、いろいろと感銘を受け、今後の読書の課題を与えられたという感じがした。 このタイミングで僕が同書を読んだのは『神と資本と女性』という、宮田登と網野善…

貴族が詠む万葉集 補遺

『日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で』の次の一節 天皇から庶民まで詠んだと謳われ、近代に入ってから栄光ある「国民歌集」の地位を与えられた『万葉集』も、実は、奈良時代の貴族によって詠まれたものだと言われている(注九)。 (163頁) について、そ…

栗原裕一郎の宇野常寛批判について+

大航海の終刊号に載った 栗原裕一郎「『ゼロ年代の想像力』に掲げる「決断主義」は果たして「ニヒリズム」なのか」 を読んだ。大航海 2009年 07月号 [雑誌]出版社/メーカー: 新書館発売日: 2009/06/05メディア: 雑誌購入: 3人 クリック: 17回この商品を含む…

林達夫とスノッブな動物

林達夫芸術論集という本が講談社文芸文庫から出た。さっそく図書館に入ったので借りて読んでいる*1。林達夫芸術論集 (講談社文芸文庫 はK 1)作者: 林達夫,高橋英夫出版社/メーカー: 講談社発売日: 2009/06/10メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 4回この商品…

『伝わる・揺さぶる!文章を書く』と「通じる」「つながる」

演劇関連の知り合いと一緒に、この本を集中して読んできました。伝わる・揺さぶる!文章を書く (PHP新書)作者: 山田ズーニー出版社/メーカー: PHP研究所発売日: 2001/11/01メディア: 新書購入: 49人 クリック: 391回この商品を含むブログ (226件) を見る 伝わ…

『動物ポモ』再読(2・改)―社会と死

人間は動物である。だから人間が動物化する、といっても別に驚くべきことはない。石が鉱物化すると言っても別に驚くべきことはないように。では、なぜことさら「動物化」という言葉を東浩紀はキーワードにし、問題にするのだろうか。人間には、ただの動物で…

『動物ポモ』再読(1)―Kojeve/Yiyeasu/Snobisme

東浩紀の『動物化するポストモダン』(『動ポモ』と略す)のキーワードとなる「動物化」は、ロシア出身の哲学者アレクサンドル・コジェーヴの議論からヒントを得て用いられた言葉だ。東浩紀自身が、同書の中で『ヘーゲル読解入門』(Introduction a la lectu…

『おかしな時代』―出版編―

おかしな時代作者: 津野海太郎出版社/メーカー: 本の雑誌社発売日: 2008/10/02メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 15回この商品を含むブログ (27件) を見る新日本文学→晶文社→『ワンダーランド』創刊(のちの宝島。VOWのタイトルはワンダーランドに由来)…

津野海太郎の『おかしな時代』―演劇編―

おかしな時代作者: 津野海太郎出版社/メーカー: 本の雑誌社発売日: 2008/10/02メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 15回この商品を含むブログ (27件) を見る昨年出た本ですが。読み終えたところ。面白かった。サブタイトルにあるとおり、演劇と出版に両足の…

『伝わる・揺さぶる!文章を書く』のプロローグ

この本の読書会、淡々とすすめております。伝わる・揺さぶる!文章を書く (PHP新書)作者: 山田ズーニー出版社/メーカー: PHP研究所発売日: 2001/11/01メディア: 新書購入: 49人 クリック: 391回この商品を含むブログ (226件) を見る『伝わる・揺さぶる!文章…

書評を読めばダメな理由がわかる―二つの「知」と古臭い感性+8

なんかダンコーガイ氏がひどい書評を書いたという噂がTumblrを流れてきたので、久しぶりに当該書評を見てみたら、シノドス*1の本を口汚く罵っているのね。日本を変える「知」 (SYNODOS READINGS)作者: 芹沢一也,荻上チキ,飯田泰之,鈴木謙介,橋本努,本田由紀,…

作中現在がずれていく−3年遅れの「笹の葉ラプソディ」雑感+7

なんかこのエントリー(↓)ひとつでプロモーションとしては大成功だったかと思えてくるハルヒ第二期スタートの今日ですが*1。 個人的にはエヴァンゲリオンは最後にハマったアニメで非常に好きだったのですが、もうああいうアニメは見られないんじゃないかと…

『日本語が亡びるとき』を読みなおすためのレッスン#4

わたしたちは、自分の故郷や言語を「当然」のものとみなすので、それらは「自然」なものになるが、それらを支える諸前提は気づかれることなく、ドグマや正統思想になる。したがって、自分の家でくつろがないことは、道徳の一部であるのだ。(エドワード・サ…

『伝わる・揺さぶる!文章を書く』というタイトル。

山田ズーニーさんの第一作を読む読書会、2回を終えました。 『伝わる・揺さぶる!文章を書く』を読む読書会 - 白鳥のめがね伝わる・揺さぶる!文章を書く (PHP新書)作者: 山田ズーニー出版社/メーカー: PHP研究所発売日: 2001/11/01メディア: 新書購入: 49人 …

『日本語が亡びるとき』を読みなおすためのレッスン#3

島尾敏雄『新編・琉球弧の視点から (朝日文庫)』を読む。島尾敏雄は50年代から奄美に住んで、70年代ぐらいに「ヤポネシア」論を展開していた。「ヤポネシア」というのは日本を「ミクロネシア」や「メラネシア」のような列島(大小の島の連なり)として捉え直…

『伝わる・揺さぶる!文章を書く』を読む読書会

小手川望さんと読書会を企画しました(偶然ファーストネームが同じになった)。 以下、ご案内。どうぞお気軽に、お問い合わせください。 「『伝わる・揺さぶる!文章を書く』を読む」 伝わる・揺さぶる!文章を書く (PHP新書)作者: 山田ズーニー出版社/メーカ…

『日本語が亡びるとき』を読みなおすためのレッスン#2

ウィーンもまた呼び売りの街である。さまざまな物売りや移動する手工業職人たちが路上をやって来る。大きな声を張り上げて「のこぎりの目立て!のこぎりの目立て!」と呼び立てながら、のこぎりの目立て師が流してくる。注文があると、さっそく中庭に道具を…

『日本語が亡びるとき』を読みなおすためのレッスン#1

日本を遠く離れて暮らす日本人が、その超えがたい距離の意識ゆえに日本を懐かしく思い、日本語が自分にとってかけがえのない何ものかであると信ずるに至るといった事態がいかにも胡散臭いのは、一時的に奪われた状態にすぎない欠落を一つの絶対的な選択であ…

山本健吉『詩の自覚の歴史』/人の孤独と小さな舟と

今までこのブログで何度か万葉集について触れた。例えば、吉増剛造がどんな風に万葉集を読んでいたかについて言及した次のエントリーとか。 近代日本語に弔いを(6) −残された音の痕跡− - 白鳥のめがね でも、万葉集について触れても反応が薄いので、ちょ…

堀田善衛 定家卿を読む

『新古今』がわかっていないとわからない感受性の領域があるようだ。万葉集は、その冒頭の幾首かをただ読むだけで意味がわからなくてもその響きのうねりにただ事ではない魅力があるのはわかるし、古今集も、通俗的なり教科書的なり、王朝文化のイメージを元…

福田定良の教え

グーグルがまだデビューしたての頃、ためしに使ってみたとき、福田定良で検索したことを覚えている。そのときは、まったくヒットしなくてすごく残念な思いがして、インターネットっていっても、集積している情報はまだ福田定良の名前がヒットしないレベルか…

『日本語が亡びるとき』を読む#2 −貴族が詠む『万葉集』−

『日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で』を読んでいて次の文章を読んで・・・絶句。した。 天皇から庶民まで詠んだと謳われ、近代に入ってから栄光ある「国民歌集」の地位を与えられた『万葉集』も、実は、奈良時代の貴族によって詠まれたものだと言われて…

『日本語が亡びるとき』を読む#1への補足 国語学から日本語学へ

『日本語が亡びるとき』を読む#1 - 白鳥のめがね で、国語と日本語の相違って話をしたんですが、ぐぐってみたら、数年前に国語学会は日本語学会になっていた。こんな重要なトピックをスルーしちゃってよかったんですか?水村先生。 本学会は、設立当初は、…

『日本語が亡びるとき』を読む#1

日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で作者: 水村美苗出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2008/11/05メディア: 単行本購入: 169人 クリック: 12,657回この商品を含むブログ (459件) を見る第七章に気になる一節があるので長くなりますが引用します。まずこの一…

『ゼロ年代の想像力』を読んで腹を立てた人のために(再加筆版)

※件の本を冷静に読みたい方は、まず(↓)をお読みください(5月27日追記)。 『ゼロ年代の想像力』を読み直すためのレッスン+++ - 白鳥のめがね この本から学べることは、こんなパフォーマンスに需要があると思われるほど文化的状況は貧しいことになってし…

フランスから哲学書届いた

案外早くつきました。 今年は、この二冊をゆっくり読もう。年内には通読したいけどな。ミルプラトーは、どこから読んでも刺激的(ま、一度通読してるけど)。 グラマトロジーは、頭から順番に読んでいくべき本なんだな。そういう面でも既存の枠組みの中で枠…

『ぼくの大好きな青髭』メモ

庄司薫は、近代日本文学の終りを見据えてこの小説を書いているのだろうなと思う。ひとつの時代をまるごと描き、そこに人生の課題を示してみせるような小説は、もうこれ以降書くことができないという認識が透けて見えるようだ。*1 単行本の刊行は1977年*2。作…

アマゾンフランスで哲学書買った

円高だ!だったら洋書買おう!ということで、学生時代は図書館で借りて済ませていたけど手元においておきたくなった名著をこの機会にフランスのアマゾンに注文してみたよ。確認のメール届いた。個人情報等伏せて以下こぴぺ。 A votre attention, de la part …

『日本語が亡びるとき』を読む#0

当然なされていて良いと思われる言及を検索してみる。 小熊英二 水村美苗 日本語が亡びるとき - Google 検索酒井直樹 水村美苗 日本語が亡びるとき - Google 検索 08年12月30日の段階では、めぼしいページは見つからず、がっかりするのだが、将来はどうだろ…