『日本語が亡びるとき』を読みなおすためのレッスン#1

日本を遠く離れて暮らす日本人が、その超えがたい距離の意識ゆえに日本を懐かしく思い、日本語が自分にとってかけがえのない何ものかであると信ずるに至るといった事態がいかにも胡散臭いのは、一時的に奪われた状態にすぎない欠落を一つの絶対的な選択であるかに錯覚しているからだ。外国から日本を見直す、あるいは国際的視点からの日本の再評価といったしばしば口にされる言葉が白々しいのは、捏造された欠落への湿った郷愁のみにその発想の源を得ているからである。
蓮實重彦反=日本語論 (ちくま文庫)』(p.270)