日亡

『日本語が亡びるとき』を読みなおすためのレッスン#4

わたしたちは、自分の故郷や言語を「当然」のものとみなすので、それらは「自然」なものになるが、それらを支える諸前提は気づかれることなく、ドグマや正統思想になる。したがって、自分の家でくつろがないことは、道徳の一部であるのだ。(エドワード・サ…

『日本語が亡びるとき』を読みなおすためのレッスン#3

島尾敏雄『新編・琉球弧の視点から (朝日文庫)』を読む。島尾敏雄は50年代から奄美に住んで、70年代ぐらいに「ヤポネシア」論を展開していた。「ヤポネシア」というのは日本を「ミクロネシア」や「メラネシア」のような列島(大小の島の連なり)として捉え直…

『日本語が亡びるとき』を読みなおすためのレッスン#2

ウィーンもまた呼び売りの街である。さまざまな物売りや移動する手工業職人たちが路上をやって来る。大きな声を張り上げて「のこぎりの目立て!のこぎりの目立て!」と呼び立てながら、のこぎりの目立て師が流してくる。注文があると、さっそく中庭に道具を…

『日本語が亡びるとき』を読みなおすためのレッスン#1

日本を遠く離れて暮らす日本人が、その超えがたい距離の意識ゆえに日本を懐かしく思い、日本語が自分にとってかけがえのない何ものかであると信ずるに至るといった事態がいかにも胡散臭いのは、一時的に奪われた状態にすぎない欠落を一つの絶対的な選択であ…

『日本語が亡びるとき』を読む#2 −貴族が詠む『万葉集』−

『日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で』を読んでいて次の文章を読んで・・・絶句。した。 天皇から庶民まで詠んだと謳われ、近代に入ってから栄光ある「国民歌集」の地位を与えられた『万葉集』も、実は、奈良時代の貴族によって詠まれたものだと言われて…

『日本語が亡びるとき』を読む#1への補足 国語学から日本語学へ

『日本語が亡びるとき』を読む#1 - 白鳥のめがね で、国語と日本語の相違って話をしたんですが、ぐぐってみたら、数年前に国語学会は日本語学会になっていた。こんな重要なトピックをスルーしちゃってよかったんですか?水村先生。 本学会は、設立当初は、…

『日本語が亡びるとき』を読む#1

日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で作者: 水村美苗出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2008/11/05メディア: 単行本購入: 169人 クリック: 12,657回この商品を含むブログ (459件) を見る第七章に気になる一節があるので長くなりますが引用します。まずこの一…

『日本語が亡びるとき』を読む#0

当然なされていて良いと思われる言及を検索してみる。 小熊英二 水村美苗 日本語が亡びるとき - Google 検索酒井直樹 水村美苗 日本語が亡びるとき - Google 検索 08年12月30日の段階では、めぼしいページは見つからず、がっかりするのだが、将来はどうだろ…

近代日本語に弔いを(7)−複式夢幻能としての『日本語が亡びるとき』−

『日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で』を評論ではなく創作として読むということでは次のような文章が書かれていることを後で知ったのだけど、 水村美苗の新作小説『日本語が亡びるとき』は、作者の二作目の小説『私小説 from left to right』を参照する形…

近代日本語に弔いを(中休み)

著者の近刊『日本語が亡びるとき』は〈日本語論〉として読まれ、論じられている。これは、『続・明暗』を夏目漱石の作品として読み、水村美苗が書いた〈結末〉に対して、「漱石が物語をこんな風に終わらせたなんて許せない」等々と一喜一憂するのに等しい。…