『ニセS高原から』を全部見ておいて良かった

こんど蜻蛉玉の公演がある。そこに岸井さんもトークの相手として出演し、ポタライブも披露するということを『百軒のミセ』の打ち上げで知ったのだけど、この機会に見に行ってみることにした。

http://www.tonbodama.org/

蜻蛉玉と言えば、ニセS高原で見て以来だ。

こんな感想を書いていた。

チラシを見た段階では、三条会ポツドール五反田団、という、それなりに定評あるグループのなかで「蜻蛉玉」という名前はなんだかつりあっているのかどうか疑問でもあり、「いったい誰?」と思わなくもなかったけれど、ともかくは手堅い仕上がりで他の実績ある演出家に引けを取っては居ないというところだろうか。

内田春菊の初期作品とか、ほんと、それ自体としてはしょうもないものなんだけど、そこから可能性を見て取って描かせた編集者とか後押しをした人というのは、偉かったなあと思う。
まあ、島林さんは、そんなに先鋭的な演劇作品を作ったりはしないかもしれないが、先鋭的なものばかりがあれば良いというわけでもないし。
ニセS 蜻蛉玉(補足訂正版) - 白鳥のめがね

うん、われながら、書けるだけのことは書いている。最近になって、どうして蜻蛉玉が抜擢されたのか舞台裏話を聞いて、それは、島林さんの経歴を見ればある程度わかる話ではあった。ともあれ、まだまだ演出家として活躍されているようでなによりだ。

それはともかく、『ニセS高原から』という企画はいろいろな意味で良い企画だったと思うので、この機会にいろいろ振り返ってみよう。

自分は他の3本についてもきちんと感想を残していた。



五反田団

ドラマ的な展開に依存しない持続感がある。・・・・もちろんそれは劇的な構成ではあるのだが。ほとんど、緩急のリズムのようなものなのだけれど、何もおきていない場所に、濃密に立ち込める気配がある。
ニセS高原から 五反田団の上演 - 白鳥のめがね

この舞台で、五反田団にほれ込みました。うーん、ここのところ、もっと細かく書いておきたかったが、仕事に追われてこういう書き方になっていたのを思い出した。自分が書きたかったことを、別の仕方で別の視点から書き残してくれた人がいたというのはとても幸いなことだった。

確かに戯曲レベルにおいて、平田オリザがさらりと通過させしまったディティールの中に、さらに細かい取っ掛かりや引っ掛かりを発見し、そこを拡大してくだらない稚戯に興じて見せる五反田団ならではの演出の数々は、間違いなくこの芝居の面白さの中心を担っていると云えるのだけれど、例えばサナトリウムに見舞客としてやってくる女性を演じる立蔵さんを見た時に、否応なく僕の心の中に惹起してしまった「辛い」という感覚や、そしてその感覚の処理の仕方に現れた演出の手つきの中には、おそらく「ノイズ」の一言では片付けられない、もっと根本的に役者の身体に寄り添った上で発揮された演劇的な美点があったと云えるのではないだろうか。
「S高原」の検索結果 - オム来襲

このときの時間の流れの細やかな濃密さに匹敵する舞台体験はなかなか無い。


三条会

この上演をするのに、あの原作は必要だったのだろうか、とか、思ってしまったのだった。そして、こういう「演出の優位」というのも、ヨーロッパでは前世紀にやりつくされたことだったんじゃないかなあ、とか思ってしまったりもしたのだった。なんとなく、こういう作品は、論じつくしてしまえる種類のものではないのかな、と思った。的確なレビューを読みさえすれば、ある程度観劇経験を重ねた人には十分に想像できる質のものではないか、と。
ニセS高原から 三条会の作品 - 白鳥のめがね

これ一度見て以来、三条会は見ないままです。自分が演劇というとポタライブしか見なくなった所以が語られておりますな。



ポツドール

粗暴で散漫ないがみ合いにばかり興味が向かうというのは、案外センチメンタルな感受性から場面が掬い取られているからではないかなあとも思った。
ニセS高原から ポツドール版 - 白鳥のめがね

いつもポツドールには厳しかった私(結局ANIMALとこれと、二回見たきりですが)。

自分とは違う基準からの評価も、少し振り返っておきましょうか。

ポツドール組も最高だった。「ニセ高原」裏バージョン。よく放送作家がコントを作るときなんかに使う手で話の裏読みってのがあって、たとえばシンデレラ、あの女はじつはものすごく計算高い女で、継母や姉にいじめられるのも、それで同情を買うのも、なぜか王子の目にとまってしまうのも、靴を忘れていくのも全部計算でやってたとしたらってことを想像したりして話をつくるんだけど、まさにあれ。ある登場人物の設定なんて、じつは本人が嘘ついてるってことにされちゃったり、でもそれがまた人物設計に奥行きを与えていていい感じ。ドライ&ヘヴィ。
http://passage.tea-nifty.com/firedoor/2005/09/post_f755.html

最初に知ったのが芸術見本市だったから、軽蔑することになったのだった。

ポツドールのアニマル - 白鳥のめがね




「ニセS」企画全体の詳細についはコチラを参照のこと↓
http://homepage1.nifty.com/mneko/play/NA/nise-s-kogen.htm

キレなかった14歳りたーんず↓の企画も、ニセSと同様、アゴラ劇場らしい良い企画だと思う。
http://kr-14.jp/

(4月15日加筆再修正)