注釈について

初台のオペラシティでやっている東京大聖書展を見に行ってきた。死海文書の公開が目玉なんだけど、日本語への聖書の翻訳の歴史や、聖書のアイヌ語訳なんて展示してあったりして、なかなか興味深い展覧会だった。

そこで、中世の聖書の写本の現物をはじめて見た。本文がわずかばかりで、ページのほとんどが注釈である。その写本に、更に欄外のメモが書き加えられていたりする。その全てが手書きなわけだが、写字生の書いた文字は、一見活字の様でもあり、丁寧だ。そう、注釈には本文が、尊重されるべき原典があるのだ。

注釈は、本文と同じ紙面に書かれて、本文を尊重しているようでいながら、本文のあり方そのものを変えてしまおうとしている。釈義することで、原典を自分の領野に引き込もうとしたりする。それ自体が書く体験であり、それが自己の経験を変容させるものでもある。

(初出「今日の注釈」/2010年3月14日改稿の上再掲)