L25の穂村弘

フリーマガジンの『L25』に穂村弘が隔週で連載していることに11回過ぎてから気がついた。少し前に、生肉を持ち歩いている人の話を書いていた。暇をもてあますような空き時間があると、道端に肉片を置いて、それを蟻が争って持っていく様子を見るのを趣味にしているという話だった。そういう仕方で日常世界に異世界を開いていく仕掛けがあるというような趣旨で、読書や短歌もそういう仕掛けであるという風に一般読者を短歌の世界にいざなって見せていた。それはいいとして、こういう文章での穂村弘の間合いの取り方がなかなか巧みだなあと思った。

生肉と穂村弘は書いていて、そこにすでに生々しさが醸し出されてはいるのだけれど、日ごろケースに入れて持ち歩くなら、それは腐臭を放つ肉であるはずだ。腐肉を始末しに集まってくる虫を蟻とだけ書いているけど、実際、集まってくる虫が蟻だけであるはずはない。半日くらい、肉をめぐって繰り返される攻防を見るというのだから、ハエも来れば団子虫もくれば、ゲジゲジの類も来るに違いない。

そういう話を生肉と蟻に切り詰めてみせて、わかる人には実情がわかるようにしつつ、OLに向けて(刊行したい編集者に)は生々しすぎる話を許容範囲に収めてしかもなお生々しく見せるところが穂村弘の文筆家としての技術なんだろう。