『起業人』成功する理由とはいえ

夏目房之介著『起業人』を読んだ。「成功するには理由がある!」なんてあおり文句が副題みたいについていて、某IT系の雑誌に載ったIT起業家へのインタビューをまとめたものとのこと。意外な出会いが呼ぶ意外なエピソード満載の一冊だった。

起業人―成功するには理由がある! (メディアセレクト)

起業人―成功するには理由がある! (メディアセレクト)

マンガ批評家とIT企業家というのは意外な組み合わせだなあと思い、ただいま失業中・休職中・人生見直し中・毎日が日曜日中の私としては、何か役に立つ本かとか思って手に取った。楽しく読了。

企業家の人柄だとか、人生のライトモチーフみたいなものを引き出さないと俺が取材する意味が無い、という夏目房之介のライターとしての意地が前面に押し出されていて単なるビジネス書に堕してはいない。それが逆に、夏目房之介の仕事観をダイレクトに見せてくれる。

読み終えてから総論的な「まえがき」を読み返すとこの本がどういう本なのかさらに良くわかる。

本書に登場する起業人はそもそも類型化の枠に入りきらないし、その多様性にこそ意味も価値もある(p.10)

バリ島の研究者が起業するなんて人生がありえるのかと驚いたし(関信彦)、内定決まったから欧州旅行してたら会社の研修を受けそびれて別会社に就職、それが今の起業につながる(三野明洋)という話には笑ったし、神社の地下にオフィスを設けているなんて秘密基地みたいな会社があったのか(レスキューナウ)と唖然とした。

夏目さんは、ビジネス書として教訓を求めて読もうとする読者にも配慮しながら、それぞれの起業家の人となりは千差万別であることに注意を促している。マニュアルではない本の生かし方を見つけ出して欲しいという暖かい配慮だ。

「まえがき」を結ぶに当って夏目さんは「異文化衝突」がもたらすダイナミズムをベンチャー企業が社会にもたらす価値としてまとめようとしている。そういった視点が、夏目さんのなかでは、世界に広がるコミックの世界のダイナミズムとも通じるものとして見えているみたいだ。

しっかり(ちゃっかり?)取材の成果を本業にもフィードバックさせているあたり、夏目さんの「起業人」的な人となりが見えてくる。そのあたりも、夏目さんの本の中ではユニークな一冊になっているんではないかと思う(私は夏目さんの本を網羅的に読んでるわけではないですが。)


雑誌連載のフォロー記事がWebの記事として掲載されているよう。もっとちゃんと全部まとめて見られるようにしておいたらいいのに。

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「モバゲー」の成功はまだまだ通過点? (1/2) - ITmedia エンタープライズ

ホームレスから年商6億へ、そのエネルギーの源泉は? - ITmedia エンタープライズ

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とりあえず、目次から登場した人物と当時の会社名を以下に列挙しておく。

伊藤正裕(株式会社ヤッパ)
石田宏樹(フリービット株式会社)
上田祐司株式会社ガイアックス)
園田智也(うたごえ株式会社)
高須賀宣(サイボウズ株式会社)
加治木紀子(株式会社オフィスノア)
堀主知ロバート(株式会社サイバード)
原口豊(株式会社ベイテックシステムズ)
関信彦(キュービットスターシステムズ株式会社)
宇野康秀(株式会社有線ブロードネットワークス
宋文洲ソフトブレーン株式会社)
アン・チョルス(アン研究所)
船川治郎(デジット株式会社)
神原弥奈子(株式会社ニューズ・トゥー・ユー)
竹内宏彰(株式会社コミックス・ウェーブ
市川啓一(株式会社レスキューナウ・ドット・コム)
南場智子(株式会社ディー・エヌ・エー
川上陽介(株式会社セルシエ)
金丸恭文(フューチャーシステムコンサルティング株式会社)
杉山知之(デジタルハリウッド株式会社)
ティム・ブレイ(アンタークティカ・システムズ)
三野明洋(株式会社イーライセンス)
栗村信一郎(アリエル・ネットワーク株式会社)

関連書評ページ
http://hiroc.blog.drecom.jp/archive/129