吾妻ひでおと日記について

最近になって初めて『失踪日記』を買って読み、『うつうつひでお日記 (単行本コミックス)』と立て続けに吾妻ひでおの日記ものを読んでいた。「うつうつ」が出たのが去年の今頃だったな、市ヶ谷駅前の私鉄系本屋に平積みしていたのを思い出した。それで、便乗本(と中に書いてあります)の『逃亡日記』まで読んでしまった。
失踪日記
吾妻ひでおを初めて知ったのは新井素子の『……絶句』(早川書房)の表紙だったと思う。中学生の頃、NHKFMのラジオドラマでやっていたのが面白く知り合いの女の子に借りて読んだのだった。そのころすでに伝説の漫画家という感じだった(現役感がなかったということね)。

そんなことを思い出して、読みたくなった本があり、図書館で調べてみたら、ありました、『ひでおと素子の愛の交換日記 (Variety book)』『続・ひでおと素子の愛の交換日記』『新・ひでおと素子の愛の交換日記 (バラエティ・ブック)』。(あとで角川文庫から4分冊で出てました)

中学生の頃書店で「愛の交換日記」ってタイトルをみて、なんだかいけない本のように思っていたものだ(でも、『やけくそ天使』とか古本屋で立ち読みしてた覚えがある)。新井素子が立教大生のころから連載が始まったエッセイで吾妻ひでおが挿絵みたいにマンガを毎回添えているというもの。

今読み返してみると、新井素子大友克洋いしかわじゅんと新築の吾妻ひでお邸を訪問していたりとか、大阪のSF大会新井素子吾妻ひでおがいっしょに出かけていたりとか(ドラマ版の『電車男』のオープニングにつながるアニメが上映されたDAICONですよね)、今となってはノスタルジック(?)なエピソード満載なのだった。連載中に電電公社がNTTになり、有楽町線が開通したりと、時代の変遷が見て取れたりもする。月刊連載で81年から始まって6年間。絵柄とか、文体の変化から、80年代前半と後半の落差みたいなものを感じました。何か決定的な断層がある。

あー、このあと吾妻ひでおは失踪するのだな、と思って読むわけですが(どんどん仕事できなくなっていく感じは如実にあらわれていて、高野文子いしかわじゅん、アシスタントAこと奥さんが代わりに原稿書いていたりする回もある)。新井素子手塚真の8ミリ映画に主演したなんてエピソードを読むにつけ、『逃亡日記』のマンガ部分で描かれた受賞式のスピーチがまたしみじみとしてしまうわけでした。

10年くらい前に読み返したとき(文庫版が大学の図書館で廃棄処分になっていたので読んだ)「新井素子のエッセイって今から振り返ると思ったより文章しっかりしていたな」とか時代の変化を感じたものだったのだけれど、文章しっかりするのは3巻目くらいからですね。まあでも、読み返してみていろいろとても時代を彷彿とさせるものがあるというのはやはり才能だったのかなと思います。

ところで、交換日記に出てくる「第二回新井素子小説大賞」(ショートストーリーの読者公募ですね)で吾妻特別賞を取った『裏枕』という作品が好きです。前読んだとき強い印象が残ったものだけど、読み直して改めて笑った。吾妻ひでおがつけてるイラストもなんというか読者との共犯関係がSFにおいてジャンルとして成り立っていたのだなというかんじで微笑ましいというか。