献血に行く

2月の始めに風邪をひいて寝込んでいたら、誰かから電話があった。こんな時に誰だろうと思って電話に出ると、献血センターからの催促だった。冬には献血者が少なくって血が足りなくなるらしい。多少の暇ができたので、吉祥寺に献血に行く。初めて献血したのは大学生の頃だから、6年近く経つ。もうだいぶ慣れてきた。好きなことをして生きている分、多少の暇と健康を世の中の為に提供しようなどと思う。ただ生きてるだけでも、人の役に立つことができる機会だ。さすがに熱出して気分悪いときに催促されたのはうんざりでしたが、こっちの病気なんて知らないわけだから仕方がない。血が足りなくて助からない人が居るかもしれない訳だし。午前中の献血に協力を、と度々言われるのだが、早起きできないのがなんだか申し訳ない。
今回も成分献血をする。成分献血というのは、赤血球と血漿を分離して、血漿だけ提供するというもの。それを薬剤にするのかとおもったけど、そういうわけでもないらしい。成分の場合は、赤血球が生理食塩水か何かとブレンドされて体に戻される。献血するときにはチューブを伝って流れ出てゆく自分の血液の温かさを感じて、自分の体が物体から成ることを改めて感じることもある。最近は慣れてしまったが、戻される液体がひんやりと入ってくるような感じがした記憶がある。
体質が虚弱なせいかもしれないけれど、血液をそのまま献血する場合の方が、体の負担が大きいようだ。一日頭が重たい感じがする。初めて成分献血したときは、機械を通った液体が体に戻されることに多少不安を感じたものだが、終わってみると頭が重くなったりもせず、「軽い」と思った。ただし、成分の方が処理の過程を含む分、すこし時間がかかる。都内の献血所では、成分献血をする間にビデオを見られたりする。映画だと最後まで見る前に終わってしまうので、(ビデオの残りを見られるブースがあったりもするけど。)TV番組のビデオなんかを見る事が多い。
今回は朝比奈隆指揮のベートーベン、第2と第7交響曲のビデオを選んだ。看護婦さんに「そんな高尚なもの聴くの?ねむくなっちゃいそう」なんて言われる。ベートーベン聴くこと自体はそれほど高尚というわけでも無いと思うけどなぁ。第2は少々退屈してしまったが、7番はコントラストもはっきりしてて躍動感あふれてて、やっぱり良いなぁ。ノイマイヤーあたりがダンス作品にしてたら見てみたいところだ。7番の第二楽章が始まったころ献血終了。サービスで肉まんを頂く。ロビーで「僕の地球を守って」第一巻を読んで帰った。はじめて読んだけど、一時代前ですね。絵柄と言い、作風と言い。帰る頃にはいつのまにか日もだいぶ傾いて、淡い色調が街を覆っていた。

(初出「日々の注釈」/2010年3月12日再掲)