イラクとチュニジアの演劇を見る

ご招待いただいたので、タイニイ・アリスで二本見る。

++Alce today++

Mustheel-alice fromバグダッド
「Abu Ghraib―アブグレイブ刑務所」
☆演出= アナス・ヘイテム

イラクバグダッドからムスタヒール・アリスが日本には珍しいセノグラフィー演劇を引っさげて三度目の来日公演です」という案内文があったのだけど、言葉としてセノグラフィー演劇という言い方をしないだけで、発想としては、日本で珍しいというわけでもなかったと思う。単にセリフを中心にはしない劇というだけのことだった。
身振りとか、音楽とか、照明だとか、小道具だとかを使っているけれど、背景にはしっかりとドラマ的な構造がある。
拷問をする看守が、いかにも残虐そうな、怪物的なマスクをかぶって演じていたのが興味深かった。
発想としてはとても素朴なもので、技術面のことも含めて、文化が一度破壊されたあとで、再建がはじまってまだ日が浅いのだな、という印象を持った。

SINDYANA group fromチェニス
「Woman Sindyan-センディアナの女」
☆作・演出・出演= ザヒーラ・ベン・アマール

チュニジアの女優による一人芝居は、反対に、20世紀の演劇の様々な歴史的な蓄積を踏まえ、文学史も踏まえた洗練され技術のあるもので、演技だけでなく、舞台の転換や、シルエットが浮かび上がるような照明効果を生かした構成だとか(ホリゾントを染める淡いオレンジの色調から、醒めた青への移行だとか、舞台空間の奥行きを仕切って逆に奥への拡がりを感じさせる演出だとか)にも、技法の習熟を感じさせるものだった。フランス語がしばしば使われて、客席に向けたあいさつにもフランス語を使っていたのが、旧フランス植民地であるという歴史を思い起こさせた。旧宗主国との文化的緊張と同時に、深く影響を受けたという事実がそのまま示されているようだった。

アラブ圏といっても、まったく違うお国柄と事情があるのだよなと思うのと同時に、やはり何かイスラム圏に共通の課題といったものも、公演後のトークでは浮かび上がってきたような気がしないでもない。

演劇として楽しめたかどうかということよりも、そういう文化的な場に直接立ち会ったことが記憶に残ることの方が大事だという気もして、帰った。そういう場の感触のようなものが喚起するものは大きいものだと思う。それは、作品性には還元できない、その場のコンタクトの力だと言っていいのだろうか。

※参考リンク
2010-02-12 - butoh-artの日記