浦和美園の劇団どくんご+

浦和美園で行われた劇団どくんごの公演は、イオンのショッピングモールが奥に見える原っぱ。駅前のロータリーの外れで行われた。

http://www.scvb.or.jp/mogitate/2007/05/

このロケーションで見られたのは、良かったなと思っている。

「ただちに犬」の公演では、丹生みほしさん*1のモノローグがクライマックスをなしていたと思う。サスペンスドラマのパロディみたいなシーンで、旅館の女将ネタをやっていた、すその長い、野原のような色合いのワンピースを着ていた、すこししゃがれた声の若い女性だ。

丹生みほしさんのモノローグでは、朝顔やツインタワーのイメージが展開される間に、車の名前を連呼して、「トヨタばっかりや」と言うというセリフがさしはさまれていた。これは、まるで、浦和美園にあわせたバージョンか、と思われるほど、その場の風景にマッチしていた。

今回の上演では、こんな案内文も出されていたのを後で知ったが、

劇団どくんごのテント演劇は、幕を閉じている時の狭く濃密な劇世界と、幕を取り払ったあけすけな現実世界の“混在”を大きな特徴としている。見慣れた自然や町並み・風景、更には客席に座っている自分自身の存在を再発見するという、独特の劇体験が楽しめる。
http://saitama.denryu.jp/modules/piCal0/index.php?smode=Monthly&action=View&event_id=0000004505&caldate=2009-9-14

たしかに、そういう効果が綿密に計算されていたのだろう。

このモノローグのテクストは、日本語によるセリフとしてすばらしく完成されていて、近代以降の日本の戯曲のなかでもトップクラスに入る素晴らしさだろうと思う。それが見事に、演じられている。その語りに運ばれて、空想に包まれていたところで、車の名前で卑近な現実に連れ戻される。喜劇的な転倒の効果というか、古典的な技法だろう。

会場は駅前のロータリーの脇なので、時折、車が舞台からみえる広場の隅っこのあたりを通りすぎる。舞台の正面の向こう、イオンのショッピングモールの手前には、幹線道路があって、たくさんの車が通りすぎる。

http://red-deer.air-nifty.com/reddeersdiary/2006/05/post_73a7.html

日本の田舎の風景が、世界経済の動きが波及して、郊外化されていく。グローバルな市場経済は、戦争やテロとも不可分なものとして、展開されている。そういうものとして、現代の風景が見えてくる。痛ましさに満ちている世界の中で語られるモノローグであるということが、的確に捉えられるようなシーンだった。郊外化された情景の中の、山羊の歌(τραγωδίες )。

ノローグのあと、丹生みほしさんが、行う炎のパフォーマンスが、とても見事で、それまでのモノローグと響き合って、とても美しいシーンを作っている。あの、つかの間、闇の中に浮かび上がる身体のイメージは、生涯見た舞台の記憶のなかでも、最も美しいもののひとつとして、記憶されている。

それ以降の喜劇的な進行は、そういう極めてリリカルな進行に誘われてこの世から遊離しそうな魂を鎮めるための操作であるように思えた。この世に着地するための回路とでもいうか。喜劇的運動がセリフが音だけになるまでにナンセンスに加速することで、象徴的な意味合いに満ちたそれまでの舞台が、脱魔術化されるというか。dramaというものを、magicとの関連で、あらためてまじめに考え直すべきかも知れない。

どくんごには、テントや舞台の解体を手伝うのが好きというコアなファンがいるそうだ。

つい そのテントがそこにあったこと
その世界が確かにあったことを
この手で証明したいがために
バラしを手伝ってしまうんじゃないか
http://laketown.noborishop.com/2009/09/20/064525

劇評を書くということもまた、ひとつの解体による確認作業なのかもしれない。どくんごの旅についていってしまう人が何人もいたらしいけれど、舞台について書くこともまた、演劇に同行する旅のひとつなのだろう。

これを書いているのは25日。今日から豊橋での公演が始まる。

(追記)ワンダーランドに同公演のレビューを寄稿しました。
ワンダーランド wonderland – 小劇場レビューマガジン
作品全体の構造について書いています。あわせてお読みいただければ幸い。
(10月2日)

*1:「ただちに犬」のチラシには、俳優さんたち全員がテントの前の野原で犬のぬいぐるみと一緒にポーズをとっている写真が大きく使われていて、出演者リストと写真の姿が線で結ばれているので、誰がなんという名前なのか確認できる僕もそのことに気がつかなくて、一緒に見に行った人におしえてもらった