漫画家と仕事/福満しげゆきと冨樫義博

バイト情報誌「maido! DOMO!」の表紙で福満しげゆきをはじめて見たときの衝撃を忘れない。
20回目の表紙は福満しげゆき先生でした! | バイト・アルバイト情報誌maido!DOMO!の謎☆

しばらくマンガをチェックしていないあいだにまったく新しいスタイルのマンガが出てきたと思ってあせった。さっそく、『やっぱり心の旅だよ』を買って、あと一連の作品を全部買って耽読した。

しかし、「maido! DOMO!」で漫画家に表紙を依頼していたシリーズは、企画として本当にすばらしかったですね。仕事という切り口で、マニアックなフリーターが興味を持ちそうな人を取り上げるという。漫画家の選び方も新旧とりまぜて絶妙な線だった気がする。


それで、福満しげゆきの『僕の小規模な生活』シリーズは、漫画家としてプロになっていくプロセスを語る、マンガ家という仕事についてのマンガになっていると思うんです。

僕の小規模な生活(2) (KCデラックス モーニング)

僕の小規模な生活(2) (KCデラックス モーニング)

福満はときどき格闘技の話をしますけど、『僕の小規模な生活』で漫画家の仕事をボクシングになぞらえていました。

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これをみて、なるほどね、と思った。作家という仕事って、マーケットとか、編集者とかとの戦いなんだなって。

『生活』は社会の陰でひそかに進む戦いの物語だけど、『僕の小規模な生活』も、ひそかな戦いの物語なんだ、と。

生活1

生活1


それで思い出すのが、冨樫義博のこと。冨樫と少年ジャンプ編集部との戦いのことは、大泉実成の『消えたマンガ家』でも語られていましたけど、かつて600万部を超えるような雑誌の編集部って、モンスターが立てこもっている巣窟みたいな場所だったんじゃないかと思います。ものすごいパワーが集まってうごめいている。

消えたマンガ家 (¥800本)

消えたマンガ家 (¥800本)

そういう辣腕編集者とか、大手出版社とか、大きな力と対決しながら、自分が描きたいマンガを自分が描けるペースで描く条件を獲得した冨樫の戦歴が、冨樫のマンガに描かれる戦いに、リアリティーを与えているのかなって、思ったりします。

冨樫が語る、より強い敵に立ち向かうために必要な心構えだったり、強さの描写だったり、強い者を前にしてくじけて行く者の描写だったり、そういうものは、マンガというバトルフィールドで実戦を繰り返し痛めつけられながらも勝利を得てきた人の経験に裏打ちされているからこそ描けるものなんじゃないかって思ったりします。

世の中の力の流れがはげしくせめぎ合う場に身を置いてこそ知ることができる高揚状態がある。生死を賭けた仕事の喜び。

*1:僕の小規模な生活』 第2巻 68ページ