むっちりみえっぱりのこと

お盆休みの15日、一晩予定が空いたのでなにか舞台を見に行こうと思って検索してみたけれど、見に行ってみようかと言う気持ちになるものが無かった。でも劇場に行きたいという気持ちだけはあったので、消去法で騒動舎を見に行くことにした。むっちりみえっぱりの人が出演するだけでなくて作演出にも関わっているというのでチェックしておくことにした。
http://mucchirimieppari.com/mucchirinews/item/158

五反田団の「さようなら僕の小さな名声」と前後してむっちりみえっぱりを初めてみた。

むっちりみえっぱりとか、五反田団のこれとか、もうやる気ない感じのどこまでも素に近い演技のスタイルっていうのは、「地点」よりも「チェルフィッチュ」よりもラディカルな今の日本の演劇の可能性を露出しているような気がして重要だとおもったりしてこんなことを書いた。

 平田オリザ以降の演劇の流れの中で「演技の零度」とでも言えるような演技の領域が開かれつつあるように思う。

 様式を磨き上げるような演技の方法論を捨て去って、日常生活ですでに十分演技されている演技を舞台化し等身大の人物を登場させることでナチュラルな場面を生み出し効果をあげてみせるような発想が、若い演劇人の間で共有されているようだ。

 そうした傾向もまた、ある種の新たな自然主義のなかにすでに様式化を始めているかのようだ。(略)

 「演技の零度」を、あからさまな芝居っぽさの中に屈折させるような手法が、世界の他のどこの国にもないような新たな演劇の領域を開きつつあるようで、そういう開けはひょっとするとちょっとした亀裂みたいにすぐに閉じてしまうものかもしれない(略)
 演劇をいかにも貧しい演劇っぽさの中に還元してしまうことで、演劇が演劇である本質的な何かを裸のまま露呈させてしまうかのような。
ワンダーランド wonderland – 小劇場レビューマガジン

このちょっとした亀裂みたいなもののことをきちんと書いておく必要はあったかもしれないけど、どう書いて良いものかよくわからない。多分、この可能性はもう、ほとんど閉じてしまっているのだと思う。むっちりみえっぱりも一度見ただけで、五反田団もきちんとおいかけてはいないけど。

なんでむっちりみえっぱりのことが気になったかというと、第一印象は悪くて、でも印象深かったのは2001年9月12日にむっちりみえっぱりのことを知ったからだ。

芸術見本市のイベントで、ウニタモミイチ氏が、最近注目の若手グループを紹介するということで、ポツドールとか、シベシア少女鉄道とか(どちらも当時まだそれほど有名ではなかった)、ゴキブリコンビナートとかと一緒にむっちりみえっぱりを紹介していたのだった。ウニタ氏はテロの犠牲者への追悼の言葉を述べてから、それとはまったく無縁の日本のマイナー演劇の動向について語っていった。各グループの代表がパネリストとして呼ばれていてウニタ氏との間で質疑応答もあった。国際的な見本市ということで会場には海外からの観客もいたはずだ。太平洋に一機も旅客機が飛んでいないという異様な状況のなかで、ふざけた若者の演劇の話をのんきに聞いているのは変な感じでこの日のことは一生忘れないと思う。

むっちりみえっぱりは変な素人っぽいビデオみたいなものを出していて公演の様子はまったくわからず、いったいむっちりみえっぱりってなんだよと思いつつ、ウニタモミイチ氏の批評眼が無名の重要グループをいちはやく紹介していたのは間違いないのでその後も気になっていて、演劇に詳しい知人にむっちりみえっぱりっていったい何?ただの悪ふざけ?と聞いたら、こないだの公演は悪ふざけにしても鈴木忠志とかネタにするのが気が利いてたとか言うので一度は見に行ってみようと思って私生活が大変な状況のころに見に行ったのでこれもまた印象から消えないだろう。


ところで騒動舎というのはもともと明大のサークルだったらしい。
騒動舎、明治大学を放逐される - PLAYNOTE
むっちりみえっぱりが騒動舎に関わるようになったいきさつは知らない。

公演は、特筆することもない。中学校の卒業式のパロディ、ジャニーズ系のコンサートの稽古風景のパロディ、ミュージカル「アニー」の稽古風景のパロディ、仮装大賞のパロディ(休憩時間に山本晋也監督にからむファン)などが披露されるバラエティ・ショー的なもの。劇場の枠組みをいろいろな仕方で見せるメタ的な視点が強く出ているとはいえるけど、幕間的に下手なヒップホップ風(?)ダンスのソロ(男性)があったりして一貫してはいない。古い言い回しかもしれないけどある種脱力系。爆笑には至らないところで終わっちゃう。まあ、これはむっちりみえっぱりって前見たときもどこかそういう公演だった。一回しか見てないけど*1

特筆することもないけど、これよりつまらない公演が9割以上というのが日本の演劇の現状だろうとか思うと、これはこれでそれなりのクオリティの公演ではあったという気がしないでもない。

特別さわぎたてるほどのことでもないとはおもうのだけれど、むっちりみえっぱりがやっていることには、何か言っておくべきことがあるような気がしてしまう。それはあまりに些細なことなので何を言っても大げさになってしまうような気もする。

まあ、只の演劇なんだ。すごい仕掛けが込んでるわけでもないし、作劇がうまいってわけでもない。素人演劇って感じなんだけど、素人にありがちな過剰さとかを回避している、素の演劇っていうか。やっぱりうまく書けないな。

「もう中学生」って僕すごくすきで、あのよさに似てるかもしれない。

会場の武蔵野芸能劇場は、今回初めてだったけど、以前中央線で通学していたときに何度かみかけて伝統的な意匠のビルが印象に残っているところだった。

*1:でも、アニーのパロディシーンの「ストリートチルドレン」2人のどこか投げやりでねばっこい演技がなんだか印象に残っている。