『文字の母たち』

タイトルは活字を鋳造するための母型に由来する。パリのフランス国立印刷所と、東京の大日本印刷に取材して、活版印刷の歴史と伝統を伝える「職場」の様子を切り取った写真と、活字の歴史を概括しながら印刷所の印象を記したエッセイからなる一冊。図書館でたまたま見かけて、港千尋さんがこんな仕事してたんだな、と思い手に取った。西洋と東洋の活版技術の歴史のなかで漢字がたどった軌跡みたいな。

活版印刷の歴史というと、プレスする印刷機械のイメージと、刷られた本が広く流通するプロセスのことしか考えていなかったけれど、文中に繰り返しでてくる文字を印字するためには同じ活字を山ほど鋳造する必要があったわけだった。
それこそ、新聞が活版で印刷されていた時代のことを考えると、消耗する活字を補うために大量の活字が鋳造される必要があったわけで。そういう熱が回転させていた近代ということを思った。