『デポー39ものがたり』

背表紙のデザインにつられて手に取った一冊。日本に「カントリースタイル」を紹介した第一人者で、その中心となったお店「デポー39」をプロデュースした天沼寿子さんの手記。大事にしたい物との出会いが大きなビジネスに育つまでの物語。この人は日本の風景を変えたひとりだったんだろうな、と思う。

デポー39ものがたり

デポー39ものがたり

天沼さんは貿易会社をやめて30前半でNYに渡る。そこで偶然出会った、飾らない古い家具などを生かしたインテリアのスタイルに魅了され、日本に輸入したいという思いにとらわれてしまう。日本で売り込みに行ったあるお店との縁がきっかけで、「カントリースタイル」をトータルに提案するお店を展開していくことになる。その波乱の人生が語られている。淡々とした文章にはある種のたおやかさがあって「手弱女ぶり」って印象もあるけど、巻末に添えられた関係する人々へのインタビューを読むと、周りから見るとエネルギッシュで意志の強い人に見えていたのだなとわかる。

重厚すぎない、使い古されたけれど温かみのあるような、ある種のアンティークの魅力は、掲載された写真からも伝わってくる。その魅力を大切に伝えたい、という思いがビジネスとしての成功につながっていく様子が語られている。


最近アンティークにちょっと興味があったので読んでみた(カントリースタイルってどういうものか、私はこの本で書かれていることしか知らないんですが)。
http://www.murauchi.net/interior/country.html
アンティークとは別に、気になったポイントを二つばかり。


―80年代初頭、アンティークの買い付けに行った時「日本人には売らない、コピーされるから」と断られた悔しい思いをしたと書かれている。その頃の体験談が語られている。

緊張と悔しさで震えるような思いをしながら、次の会社に向かいました。自分の心の動揺とは裏腹に、実にのどかな村の中を車で移動中、前を走っている車が全部「トヨタ」「ダットサンニッサン)」「ミツビシ」だということに気がついたとき、突然涙があふれ出てきました。(p.23)

アメリカ中をセールスした昔の日本の男の人は偉かった、励まされた、と天沼さんは書いている。戦後の日本がどのような課題を抱えていて、そういう課題が生活をどう織り成していたのか、かつての世界の肌理のようなものが彷彿とする一節で印象深い。


―キャプションがリリカルな感じで、少女漫画の独白みたいだなと思っていた。そんな天沼さんもこう書き付けている。

十数年前から、「カントリースタイル」のインテリア雑貨のデザインがどんどん幼くなり、またチープな感じになっていることを、私は危惧していました。(中略)この「かわいらしすぎる」インテリア雑貨というのは、日本独特のもののように思います。(p.105)

インテリアにご主人の意見が反映されていない。「質朴で力強く、それでいて人の心を穏やかにさせるインテリア」が「カントリースタイル」だと天沼さんは注意を促している。

ここを読んで思い出したのが、次の一冊。

少女マンガ誌のふろくがその後の雑貨につながった。80年代の消費文化の原型になった。という論旨の本なのだけど、ある種の心性史の連なりがあるよなと思った。


関連リンク。

デポー39
デポー39ものがたり : O・ha・na・shi日記 Rint-輪と
SASSER+: デポー39ものがたり