死刑のこと

私は、死刑のことをそんなに深く考えたことも調べたことも無いけれど、漠然と、死刑制度が続いていくのは受け入れたくないという気持ちがある。亀井静香って政治家は基本的にはそんなに支持したくないけど、死刑制度に反対というだけで信用してよいような気になってしまう、そんな感じだ。

それで、↓の森達也著『死刑 人は人を殺せる。でも人は、人を救いたいとも思う』の書評をを読んで思った話を書きます。

人を実際に救う段階において、私としては死刑にはあまり大きな優先順位を付けることは出来ないのだ。なぜならば、「人が救える人の数には限界がある」からだ。そうである以上、このテーマには経済学的な見地がいやでもつきまとう。「どうすれば、最も多くの人を救えるのか」。

その点において、存続、廃止を問わず死刑を「改良する」というのは、あまりに投資効果が低い。まず、死刑で死ぬものの絶対数が少ない。(中略)そして死刑囚そのものの数も少ない
http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/50986935.html

弾氏みたいな風に「人を救う」という観点から死刑のことを考えたことがなかったので、ちょっと虚を衝かれた。

制度がどうあるべきかっていうのは次元が違う話だろ、って突っ込みはすぐにいれられるだろうけど、それは別にして、死刑をなくすために、どれだけの労力が既に払われ、今後も払われていくのか、そのためにどれだけのものが賭けられてきたのか。なぜ死刑をとめるために様々な努力が傾けられてきたのか。そんなことを考えていて、国際刑事裁判所のことを思い出した。

国際刑事裁判所(ICC)(中略)は、個人の国際犯罪を裁く常設の国際司法機関である。
(中略)
国際司法裁判所(ICJ)と混同されることがあるが、国連の司法機関であるICJは国家間の法的紛争を扱うため、全く別の裁判所である。
国際刑事裁判所 - Wikipedia

最近のニュースで言えば、

ICCの訴状によると、同容疑者は「Bogoro村の襲撃を計画・指揮し、約200人を殺害したほか、残りの村民に深刻な身体的損傷を与えた」ほか、女性や少女を性的奴隷とし、子どもを少年兵として強制的に徴募した罪に問われている。
コンゴ(旧ザイール)の武装勢力幹部、国際刑事裁判所に身柄送検 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

それで、「国際刑事裁判所に関するローマ規程」によると、国際刑事裁判所が下す刑罰の最高刑は終身刑ということ。

第77条(適用される刑罰)1項b
適用しうる刑罰は、30年以下の有期の拘禁刑または終身刑のみで死刑はない。犯罪がきわめて重大であり、有罪とされる人の個人的事情によって正当とされる場合においても、最高刑は終身拘禁刑である。
国際刑事裁判所 - Wikipedia

何百人、何千人を殺すような犯罪を犯した個人を有罪として裁いても、死刑にはしない、という制度をすでに日本も含めた多くの国が認めてその運営に協力しているわけで、そのために払われた知的だったり政治的だったりする努力は、そう簡単に無かったことにできるものではないというのは、そんなに考えなくてもわかる。

たぶん、国際刑事裁判所がいますぐ直接に誰かを救うことができるとは誰も考えていないと思うけれど、ゆっくりとでもそういう制度を形にするべきだという認識のもとに並大抵ではない資産が注入されているはずだ。

今後何世紀もかけて、そういう制度が有効性を獲得していける、というのが希望のひとつの形かと思う。そういう営みがあって、はじめて生きていけるという面も人間にはあると思う。

日本で当分生き続けるだろう死刑制度が国際刑事裁判所という制度と直接矛盾をひきおこすということは、ありそうも無いことだけれど「死刑があるべき理由」を考える人は国際刑事裁判所があるという事実、その歴史の重みを思い起こしておいても良いのではないかという気もする。

911テロのあといろいろ国際法のこととかを勉強したので、そのときに国際刑事裁判所のことも知った。国際刑事裁判所アメリカ合衆国の特定の個人を裁くということは当面ありそうも無いということについてあれこれ考えたことを思い出す。

あと、ウィキペディアの記事をみて、国際刑事裁判所が「被害者信託基金」を設立していることを今回はじめて知った。


死刑ということでは、最近ほかに次のものを読んで、誠実さとか知的な粘り強さとかいえるようなものに勇気付けられた。

http://d.hatena.ne.jp/sugitasyunsuke/20080426/p1

http://d.hatena.ne.jp/font-da/20080424/1209047120

あと、次のページはすぐには読みきれなそうなので折を見て読んでおこうかと思った。
http://www.geocities.jp/aphros67/indexs.htm