西郷信綱の『古事記の世界』

西郷信綱の『古事記の世界』は、古事記に出てくる歌謡をダンスや演劇を伴ったものとして読み解いていくところがスリリングだ。それが、周辺部族を征服することによって成り立った王朝の儀礼に不可欠のものだったというところまで話が及ぶ。

古事記の世界 (岩波新書 青版 E-23) (岩波新書 青版 654)

古事記の世界 (岩波新書 青版 E-23) (岩波新書 青版 654)

西郷信綱が解き明かしてみせる儀礼的な歌の場所というのは、現代の儀礼とかダンスや演劇の成り立ちにも形をかえて、あるいは分断された形で、生きているものではないかと思ったりして、この本がもたらしてくれる知見というのは、単に古代史研究文学研究の範囲に留まるものではないのだろうと興奮したおぼえがある。

日本の歌の歴史を考える上で記紀歌謡の世界にすこしでも触れておきたいと思うのだけどやっぱりちょっとだけ手が届かないところにある感じがする。
西郷信綱の新書とか、そういうときの手引きとして絶好という気もするのでまた読み直してみようかとあらためて思う。

(2008年7月30日 mixiから転載)