金沢舞踏館「カフカ」
金沢舞踏館/Theater ASOU(オーストリア/日本)
カフカ「変身」出演=山本萌、白榊ケイ、Uschi Litschauer, Monika Zohrer,Christian Heuegger, Gernot Rieger, Klaus Seewald
舞台監督/呂師 照明/宮向隆 音響/加納和歌子 制作/鈴木光子 他
ダンスがみたい7!の最後を飾る舞台。
8月31日(水)19:30からの回をみる。
日本のダンサーとヨーロッパのパフォーマーとが同じ舞台に立つにも関わらず、見事に完成された、一貫した作品となっていた。
金沢舞踏館とシアター・アソウのコラボレーションは2回目となるらしいが、身体技法の共有が、作品全体に統一感を与える地点にまで到達している。その点で、今回の「インターナショナル ダンス コラボレーション」企画の中では、もっとも練り上げられた舞台だったと言える*1。着実に交流を重ねたことで、完成度の高い舞台を作り上げ得たことは、大きく評価されるべきことだと思う。
舞台は見事に様式化されたものだったが、それは既存の様式をカフカに押し付けて終わるようなものではなく、むしろヨーロッパの舞台作品にみられる舞台美学と舞踏の身体技法が見事に融合した所で、様式として鍛えなおされたものだったように思う。シアター・アソウ側が寄与する面も多かったのだろう。時にコミカルに群像が右往左往している様子などは、マギー・マランの作品を連想させたりもした。
カフカの「変身」を題材にしていたということだけれど、原作のディテールをすっかり忘れている私には、カフカの小説をどのように踏まえていたのかといったことは全く考慮の外にあった。少なくとも、ザムザが虫になったということをダイレクトにイメージさせるようなものはなかったように思うが、今思えば、ザムザに相当するパフォーマーは決まっていたということかもしれない。
舞台奥に大きな扉があるという簡素なセノグラフィーもなかなか見事なもので、明暗のコントラストを際立たせる照明も美しかった。
全体の構成は、様々なシーンを小刻みにつないでいくようなもので、場面場面の感興が細切れにされてしまったためか、私は作品の展開にうまくついていくことができず、いつしか傍観していたような気もする。
不満があるとすれば、音楽の使い方は安易だったかもしれない。音楽は、雰囲気やイメージを醸しだすものとして使われていたようだけれども、どこか装飾的なものに留まっていたように思う。BGMのように時間を埋め尽くしてしまっていたきらいがあったようだ。
群像劇のパートが繰り返される中で、ヨーロッパのパフォーマーたちの身体作法への注意も飽和されてしまった。結局、身振りのひとつひとつが特異性に満ちた日本人ダンサーによるソロの場面はいつまでも見飽きないものだったというのが、見終わった時の感想だった。
コラボレーションによる成果が一定の水準に達していたとはいえ、ヨーロッパのパフォーマーにとって舞踏的身体技法の修練はまだまだ借り物の段階に留まっていたということなのだろうか。