地点『三人姉妹』

音節レベルで台詞を分断し、別々のイントネーションを与えるという特異な発声法と、静止した姿勢に半ばひきつったままの表情で緊張感溢れる身体演技とによるチェーホフの『三人姉妹』。
省略を施しつつ、全体のプロットは保存されていて、時系列は元の戯曲通りである。

再現的ではない演出から浮かび上がってくるものは、確かに『三人姉妹』という戯曲に内包されていたものであると思われた。

『三人姉妹』という戯曲が、現在時の系列として展開される場面の背後に隠し持っていたもの、それぞれの現在を成り立たせる様々な感情の力の生々しさ。

『三人姉妹』で繰り返される、社会の進歩と未来から回想されるものと想定される現在、というテーマは、演出そのもののスタイルの内に昇華されていたかのごとく。あたかも、舞台に展開するのは、時系列的に保存された現在の知覚されたドラマではなく、知覚の場面に浮かび上がる前の様々な要素が、過去に遠ざかるままに、飛散してゆく姿、であるかのようだった。

(初出「些末事研究」/再掲2010年3月10日)