近文研『二人静』を見る

能の『二人静』をテクストとしてそのまま使った(いわゆる謡曲を台本とした)現代演劇の公演。
音楽は鼓や笛はなくて、津軽三味線のデュオ。俳優二人に舞踏のダンサー一人が出演。

台詞の発声は、能の謡い方ではないのだが、擬古的な朗詠調のものだったりする。ところどころ、女性の台詞に童歌調の節回しがつけられたりするあたりは、近文研おなじみの手法だ。幻想的な内容のなかに抒情性が込められるというテキスト(謡曲)の性格も、近文研好みなのだろう。

近文研の作品は昨年から何本か見ているのだけど、見る度にやはり何か足りないという思いが強まる。いや、静御前の舞に擬した舞踏に能のテクストが回想として重なり合わされ、能の上演とは別の仕方で、静御前の霊と、憑かれた女とが一人の女の生前の思いを演じて行く演出に、心動かされる場面が無いではなかったのだが。

演劇の舞台で美しさを目指す試み自体が、今の日本の演劇シーンでは珍しいものだと思うので、がんばって欲しいわけだけど、やはりケレンと装飾の水準をなかなか越えられていないように思う。

しかし、審美的なものを目指そうとする、生まれたばかりの様式の、その正当性があやういような姿は、もしかすると、発生期の能の気配を呼び起こすものだったのかもしれない、と夢想した。

(初出「些末事研究」/2010年3月11日再掲)