永遠の相の下で

スピノザ に『神学政治論 』という本がある。

一見すると、キリスト教徒達の反ユダヤ主義に都合の良いような古代ユダヤ社会の反目の歴史になぞらえながら、同時代の新教内部の反目をあてこすり、批判してみせるスピノザ。社会を機械仕掛けのように分析しながら、政治論を展開するスピノザ

畠中尚志という、スピノザの著作を個人で全訳してしまったすごい人が訳している。サブタイトルに「聖書の批判と言論の自由」とある。それを目にとめた僕は院の先輩のスピノザ研究者にたずねた。

Y サブタイトルは、スピノザじゃなくて・・・。

K そう、畠中さんがつけたんだよね。でも、この本、戦中に出た版もあって、そっちにはサブタイトルついてないんだよ。

Y ああ、言論の自由はちょっと無理ですかね。

K 戦中にこんな本出版してるってすごいよね。さすがに検閲にもひっかからなかったという。

Y 「神の国」の政治論、みたいにして通っちゃったとか?でも、畠中さん自身がまるでスピノザみたいだなあ。日本の学問の歴史を飾るちょっと良い話、ですね。

戦時中には、岩波文庫の需要があって、それは、戦地に古典を持っていきたい若者が買い求めたからなんだそうだ。

(初出「風の近く」/2010年3月13日改稿の上再掲)