9月11日はJoe Zawinulの命日です。

フュージョン系のバンドとして有名なWeatherReportの実質的にリーダーだったJoe Zawinulが亡くなってもう二年になりますね。最晩年には、『Z』って雑誌の表紙を飾っていたりして、おお、と思いましたが*1

ジョー・ザヴィヌル - Wikipedia

今年は、ジョー・ザヴィヌルを追悼して、1971年のソロアルバム『ZAWINUL』を紹介してみたいと思います*2ウェザー・リポート結成直前のレコーディングのようです。1990年頃、大学受験の浪人生活してた頃に初めてCD買ってそれ以来聞いてるから、これはもう20年近く飽きずに聞いてる愛聴盤ってことだな。

Zawinul

Zawinul

1.Doctor Honoris Causa
2.In a Silent Way
3.His Last Journey
4.Double Image
5.Arrival in New York

ZawinulとHerbie Hancockエレクトリックピアノを弾いてます。エレピ2台のスタイルやエフェクトが違うので絶妙なハーモニーになっている*3。それに、Walter Bookerと、あと後にウェザー・リポート結成に参加するMiroslav Vitousの2人がウッドベースで競演してます。ベースは、片方が弓弾きだったりする*4。パーカッションにJoe Chambers,Billy Hart,David Leeの三人が名を連ねてます(4だけJack Dejohnettも参加してる)。この、ピアノとリズム隊の編成がすでにユニークですよね。比類ないサウンドを確立してます。Jazzが進化できた可能性の一つがアルバム一枚で極められている感じ。こっちの方向は、追随するものもなく、陳腐化もしなかったというか。基本的にはジャズのフォーマットなんですが、ただの4Beatではないです。むしろ、名前もついていないジャンルの音楽と言った方が良い。こんな音楽他にはないです*5

それに、フルート、トランペット、ソプラノサックスが加わります。やわらかめの音色の管楽器を重ねたアンサンブルは、ちょっと、ハンコックの「Speak Like A Child」とかに通じるものがあるかもしれません。1.ではトランペットでWoddy Shawがソロを披露していて良い味出してます。4.だけWayne Shorterが参加してますね。

2.は、マイルスのアルバムでやってるより、こっちのバージョンの方がいいなあと思うのは、こっちを先に聴いていたせいかもしれない。4.が、わりとリズムが激しい曲ですが、他の曲は、情景を描写するみたいな感じの穏やかだったり、どこかメランコリックな調子の音楽です。
1.も、映画のオープニングみたく静かにドラマが始まるような導入で、牧歌的な主題は、ウィーン出身のザヴィヌルの中欧的な出自を連想させる雰囲気ですね。5.なんて、ウィーンからNYに出てきて、騒がしくて驚いたって印象をスケッチしただけみたいな感じの2分足らず小品で、ちょっとユーモラスです。3.もタイトルが老人の旅行というイメージを喚起するものだけど、ちょっとおどけた調子のゆっくりしたメロディーがくりかえされる小品です。
いわば「ユモレスク(humoresque)」なジャズという、それほど掘り下げられていなかった領域を開いた一枚ともいえるかもしれない。

フリージャズからフュージョンまで、あれこれ実験的な試みはいくつもあって、その中には、今聞くとどうしても古いというか時代のあだばなだな、としか思えないものも多いわけですけど、この一枚は、そういう時代の様々な試行を、ひとつの作品のなかにしっかりと着地させて、時代を超えてある種の完成像を描いているように思います。『ウェザー・リポート』のファーストアルバムは、どこか過渡期的なある種未熟なものという印象が残るんですが、『Zawinul』は、モダンジャズの完成形のひとつでありながら、未踏の領域に踏み出している、その初々しさみたいなものもある、という点で、ひとつの奇跡的な達成のドキュメントになりえていると思う。アルバム一枚を通した、バラエティに富みながら統一されている、ひとつの小世界たりえている感じも素晴らしい。聞き飽きないゆえんです。

ポストロックとか言われている系統の音楽を、僕はそんなに熱心に聴いたことは無いけど、たまにそれ系の音楽を聞きかじるときに、いまいち乗り気になりきれないのは、このアルバムへの偏愛があるのかもしれない。『ZAWINUL』の一枚には勝てないよ、とか思ってしまう。まあそれも、偏った耳なんだと思うのではあるけど、音響系とか好きになるみたいな、ちょっと他にないテイストの音を探求している人は、聞き逃してはいけない一枚でしょう。

今回エントリーを書くに当たってちょっと調べてみたら、思ったほど高く評価されてないみたいですね。個人的には、生涯で聴いている回数でいったらトップに近いもので、これを抜きに音楽は語れない必聴盤であると力説しておきたいところです。ま、僕は音楽を語る言葉をもたないので、これ以上に上手くいえませんが。

関連エントリー
http://d.hatena.ne.jp/yanoz/20080911
http://d.hatena.ne.jp/yanoz/20070912

※リンク
こちらの記事、マイルス盤との聞き比べも含め、細かくレビューしていて参考になる。
http://d.hatena.ne.jp/fractured/20080406

*1:晩節を汚したという気もしないでもないけど。。。。

*2:ジャケットみると、そのときから爺さんっぽいルックスですね。

*3:多分、エフェクトがかかってもやがかった効果音みたいな音を出しているのがハンコックじゃないかと思う

*4:弓の方がヴィトウスじゃないかと想像している

*5:もちろん、先行する音楽としては、ザヴィヌルが参加して主題曲を提供したMilesバンドの『In a Silent Way』だとか、ザヴィヌルが教育を受けたクラシック音楽からの影響だとか、類縁関係にあるものはいくらでも指摘できるでしょうけども。それと、後続するものでは、初期ウェザー・リポートはこの延長線上にあるとも言えそうですが、ウェザーリポート自体が、こういうセミアコースティックな音の世界からファンク寄りでもっと単純な構造をもった音楽の方向にシフトしていってしまいますね。