福満しげゆきの塗りつぶし

 来週でいよいよ『僕の小規模な生活』の連載が終わり。毎週の楽しみがひとつ減ってしまうな(まあHxHが再開するから差し引きゼロか)。
 今回は、大槻ケンヂの思い出(をインタビュアーに話せなかった)という話。二巻に収録されるだろう再開後の週間連載で興味深かったのは、福満の嫁の父が(嫁側の親族では父親だけが*1)正面から顔を描かれていたってこと。これは、編集者たちみたいに背中側から描いたのではすまされない事情が作者にはあるってことだろう。そういうところに現れる作家性が福満の人物描写に説得力を与えているとおもうんだな。
 そんなことをおもって連載を追っていたので、このあいだ編集者の一人が顔の上だけ塗りつぶし、口のあたりは描かれていたのが興味深かった。これは、タクシーに同乗したときのシーンの必要もあったのだろうけど、ほかの編集者とは違う位置で捉えられているからともいえる。編集者のうちの一人ではあっても、福満に対しては直接かかわりのない人という位置だからこそ、ああいう描写になるのだろう。それこそ、背を向けた人に真向かいになる自分を描くという必要が、編集者を後姿にしているのだから。
 というわけで、大槻ケンヂが黒く塗りつぶした影として描かれているのもとても興味深いところだった。大槻ケンヂは、福満にとって、キャラ化しきれない父親がそれでも顔を描かなければいけない存在だったみたいに、黒い影としてしか示せない別格の存在ってことなのだろうな。まあ、単に似顔絵描いてみたら似てないのでくるしまぎれに塗りつぶしたというのが表面的な事情だったかもしれないけれども。
 

*1:単行本を買って読んでみたら、おじいさんおばあさんも正面から描かれていました。忘れてたな。