ザヴィヌル忌

早いものでジョー・ザヴィヌル没後一年です。
http://d.hatena.ne.jp/yanoz/20070912/p1

ジャコ・パストリアスがいた頃のウェザー・リポートが一番良いっていうのに異論は無いんですけど、私が一番好きなウェザー・リポートのアルバムは「ミステリアス・トラベラー」なんです。昨年もこのアルバムのタイトルだけ挙げましたが、ザヴィヌルの没後一年ってことで、簡単に私の思い入れを語っておこうかと。

Mysterious Traveller

Mysterious Traveller

 それぞれの曲調もバラエティ豊か。それでいてアルバム全体の印象に統一感があるというのがまさに驚異的。
 3曲目のCucumber Slumberとか、もろファンクぽいですけど、こんな味付けのファンクは他のバンドには作れないだろうという感じ。2曲目のAmerican Tango とか、6曲目のScarlet Womanとか、どこかノスタルジックな雰囲気だけど、いったいこれはなんと言うジャンルと言えば良いのかわからない、一曲1ジャンル的な、ポピュラー音楽のバージェス頁岩か、っていうほどの空前絶後のバラエティ豊かさ*1
 Mysterious Traveller はタイトル通りの幻想的で無国籍エキゾチックな不思議メロディーを壮大に繰り広げてくれる一方、Blackthorn Rose はアコースティックなピアノとピアニカとソプラノ・サックスの室内楽的で美しくも叙情的なアンサンブルが素敵。最後のJungle Book も牧歌的な伸びやかさが夏の夕方って感じでかすかな寂寥感をおだやかになだめてくれるみたいな印象。
 でも、なんと言っても一曲めのNubian Sundance の緊密なアラベスクを織り成す曲構成と躍動感がすばらしいと思います。カデンツァ的なクライマックスのあと繰り返されるコーダの旋律のなかに曲の動機すべてが含まれているみたいで、その要素をモザイクのようにちりばめる形で曲全体が成り立っている。なんでも、ザヴィヌルがテープに即興演奏を録音してそれを編集するみたいにして作曲したのだそうで、そういわれると、なるほど、パズルのように複雑なのに、そうは思わせないように運ばれてしまう感じが実現されたゆえんが良くわかります。

 それまでのアルバムが、どこか、ジャズからフュージョンへの過渡期という時代のもの、って印象が残るのに対して、4枚目はいきなり完成されちゃっていて、時代を超えた音になっているなと思います。
 ウェザー・リポートで初めて聞いたのはたしか1枚目だった気がしますが(二十歳になるこころ、90年代が始まる頃だった)、ほぼ同時期にこれも聞いて、あまりの違いに驚いた覚えがある。ジャコ加入後のアルバムを聞いたのはそのあとだった。
 たしか、週刊プレイボーイ萩原健太さんが有名バンドの名盤を毎週紹介するようなコラムを連載していて、そこでウェザー・リポートを紹介するのにこのアルバムのジャケットが出ていた記憶があります。メロディーの繰り返しの無い、一曲一メロディーというような曲は、ザヴィヌル以外は、どんなメロディーメーカーにも作れない、というようなことが書かれていた気がする。変幻自在で、ぬえのような曲構成が完成されたのがこのアルバムで、これ以降の路線の全てがこの一枚から始まっていると言えると思います。まあ、その後の名盤の名声に比べると、ちょっと「ミステリアス・トラベラー」の評価は低すぎる気がするので、是非、多くの人に聞いてもらいたい。
 僕がポストロックとか、音響系とか、いまいち夢中になれないのは、「ミステリアス・トラベラーが一枚あれば良いや」とつい思ってしまうからなのです(なんかふいに僕に戻ってしまった)。
 ウェザー4枚目のアルバムという人と5枚目という人がいますが、日本限定で発売された東京でのライブ盤を数に入れるかどうかの違いですね。

まあ、細かいことは(英語読めるなら)こちらを見ていただけば良いでしょう。
Mysterious Traveller | The Weather Report Annotated Discography


日本語のウィキペディアだと、ミロスラフ・ヴィトウスの名前が消えちゃってる・・・・。まあ一曲弾いてるだけとはいえ、オリジナルメンバーなのにね。
ミステリアス・トラヴェラー - Wikipedia

そのほか、リンクなど
http://blog.goo.ne.jp/narymusic/e/c50046ffa6756a6ba0bd7e604ad0af09
レコダイ2008

*1:いや、全部Jazzでしょ、ていうのは、アノマロカリス節足動物って言っちゃうくらい無粋ってことで