「紙ピアノのなる夕べ」

http://www.lebal.co.jp/cyabasira_bbs/web.html
で、次のような告知をみて、運良く多少の時間が空いていたので、駆けつけてみた。

[朗読会]
 「紙ピアノの鳴る夕べ ― pieces of voices ―」

[朗 読]飯田有子 佐藤りえ 田中 槐  東 直子 広田栄美 穂村 弘 伊津野重美

[日 時]2005年10月22日(土)開場 16:30/開演 17:00

[会 場]LAPIN ET HALOT(ラパン・エ・アロ) 表参道
     http://www.lapin-et.com/about/index.html
     Tel. 03-5469-2570
     ※小学生以下のお子様のご同伴はご遠慮下さいますようお願いいたします。

[料 金]前売2300円/当日2500円 ※前売予約は10/20まで

[企画・制作]pigeonblood [協力]荻原裕幸

 ★伊津野重美 第一歌集『紙ピアノ』写真・岡田 敦/刊行企画・荻原裕幸
  ※2005年秋 発売予定(風媒社)

伊津野重美さんに朗読やるべきだってけしかけたのが穂村さんや東さんだったという噂を聞いて、それは一回聞いてみないとな、と思っていた。7月の時には、入り口までご案内しただけで素通りしていたのも、ちょっと気にかかっていた。

で、聞いてみた感想は、伊津野さんの声調の独特な魅力というのはなるほど良くわかったのだけれど、朗読作品として考えたときには、いまいち、その魅力が生かされているとは思えなかった。こういう言い方をしたら非常に失礼かとはおもうけれど、正直な感想を言えば、はじめの挨拶の時が一番良かった。次に良かったのは、広田栄美さんと二人でやった場面の、冒頭の、マイクを使わずに二人で声を投げかけあっていたところ。あの感じが1時間続いていたら見事な舞台作品になっていたのに、余計なことをやりすぎていると思った。

穂村弘氏は、いつどこで何を語っても、何を朗読しても、同じ調子で、そのコンスタントな感じが、なんとも言えないけれど、穂村弘という生き方がそこに確かに現れているのだろうなあと思ってみたりもする。やっぱり、ステージを下りるときとか、穂村氏の仕草には不可解な震えが走る。エッセイのファンはぜったい生穂村氏を一度は見ておくべきだと思う。

佐藤りえさんの朴訥な朗読も良かったし、飯田有子さんの朗読は噛みまくりだったけれど、テクストの選び方とか、やっぱり知性を感じる。ラムズフェルド発言から格言生成ソフトから、自作の短歌から、並列される。言葉の現在に向けた批評性の確かさがあったと思う。

東直子さんの朗読ははじめてだったけど、ラジオ番組をレギュラーでやって欲しいなあと思うほど気持ちいい声。

批評会の時に伴風花さんが『イチゴフェア』の最後の歌を読んでいて、それまで「〜たら」という末尾を、仮定として解釈してたのが、提案の口調で声に出されていて、作者はそのつもりだったのか、あるいは、そっちの解釈を選んで声に出したのか、と思って、多義性を残したままの朗読はできないものかと思っていたのだけど、東さんの朗読で「パン生地をこねるように抱いて」みたいな歌の末尾が、なんというのか忘れたけれど、多義性を残す口調を違和感なく実現していて、それは多義性を計算したものでも意図したものでもなかったのかもしれないが、そういうところもさすがだと思った。

早坂類の詩を読むのに、映像を使うっていうのは、これかー、と思って、7月見逃したのを見る。映像に出ていたキャラクターが、舞台に出てくるという趣向。基本的にでも、こういう風に舞台に映像使うのって、発想としては20世紀初頭のロシアで行われていた実験とかと比べて、そんなに違わないんじゃないかなあとか、断片的な知識だけで根拠もなく勝手にそんなことを思う*1

マイクとかBGMの使い方とか、ちょっと納得できなかった。クレジットを見ると、歌人の皆さんが音響とか照明とかやっていた様子。

マイクを使わない方が多分、比較的簡単に肉声の魅力は届くのだと思う。そういうものの調整は誰でもある程度直観的にできることだろうから。

しかし、マイクとかアンプとか使うときには、よほど熟練した音響技師と良い機材とのバランスが取れていなければ、本当に声の魅力が引き出されることは無いだろうと思う。

まあでも、そういう肌理のところまで注意を向けるということを、朗読の観客はあまり求めてはいないのかもしれない。そうである限り、朗読というもののクオリティは頭打ちだろうとおもったりしつつ。披露宴的イベントだったなー、と、ちょっと疲れて帰ってきた。

短歌関係のいろんな方々が集まっていたのは当然として、今の日本でもっとも傑出した舞踏家の一人といっても大げさではないだろうイシデタクヤさんが来場していたので驚いてしまって、ご挨拶。広田栄美さんが舞踏っぽいことをしながら朗読すると聞いて来場されたらしい。あと、五反田団のこととかお話しした。五反田団の人形が凄いと聞いて見に行ったことがある由。イシデさんの関心の持ち方がまた融通無碍な感じで素晴らしいと思った。あの場所にイシデさんがいることに驚く人の一人としてあの場所に立ち会えたのは、ラッキーなことだった。

*1:スタジオ・アッズーロとかが凝ったことやっても、そんなに違わないよね、とか。じゃあニブロールとか発条トとかの映像はどうだったのか。大差ないとか言い捨てちゃうのは安易だけれども。でも、平面と立体との関係って、結局限られてしまうもので、膨らましようのないものなのかもしれないなあとか、不毛な考えを抱いてしまう。