モブ・ノリオ『介護入門』とニガー

去年読んだ数少ない小説のなかのひとつがモブ・ノリオの『介護入門』で、夏休みに帰郷したときに、『文藝春秋』を買ったら載っていたので読んだ。むしろ、イラクで殺されてしまったジャーナリスト橋田信介さんの奥さんである橋田幸(ゆき)子さんの手記を読みたくて買ったのだった。

『介護入門』を読んでみて、ラップがどうのこうのというものではないなと思う。あの饒舌体というのは、基本的に語りのものであって、ぜんぜん韻文じゃない。ラップって、韻を踏むものなんでしょう。あの饒舌体は、むしろ、大江健三郎の『ピンチランナー調書』とかと比較すべきものなんだろうと思ったりする。

問題の、YO!朋輩(ニガー)なんだけど、あれは、日本語に相応の呼びかける言葉、呼びかける二人称が無いということへの苛立ちから発するものなのだろう。「ねぇあなた」、でも「おいお前」、でも「やぁ諸君」、でも駄目というわけだ。で、日本語では呼びかけられない仕方での呼びかけをしようとする、その畸形的な転倒の戦略ということなんだろう、と思った。

それを「田舎っぽいからやめたら」とか言う輩などは糞食らえである。もともと田舎者が主人公の小説ではないか。

ある種の、馴れ合いには陥らないような親しみのあり方への希求が、ああいう無理な語法にこめられているのであろう。

それで、ニガーって呼びかけは呼びかけの言葉としてどうなのかなあというのが正直実感わかないので、上のような話は書けないで居たところ、ニューヨーク在住のフリージャーナリストというのか、女性が発行しているメルマガで、次のようなエピソードが流されていた。

10/20
ハーレムの地元ラッパーにインタビュー。「たまに日本人が『ヨ!ワサップ、ブロ!』とか言ってくるけど、全然OKだよ」と寛大な笑顔。ところが急に真顔になり、「しかし、ひとつだけダメな言葉がある」。「それはniggaだ」と、最後にスゴんだ時の表情はさすが元ギャングスタ
ハーレム mini ジャーナル 2004年10月