Snell朗読会に行った

歌人の今橋愛さんと雪舟えまさんが、小説を書いたりエッセイを書いたり、短歌のほかにも俳句を発表してみたり、他の寄稿者からの批評を受けたりと、小雑誌的に面白かったSnellですが、こういうプチ小雑誌ブームみたいな昨今において、ひときはきりりと輝いていた雑誌なんじゃないでしょうか、私は一年購読して、まだ飛ばし読み状態なんですが、今回このふたりの朗読会があるというので出かけてみて、みっちり読み返したいという思いで帰りましたよ。

http://homepage2.nifty.com/mami/sakusaku/info.htm#snell_koudoku

この一冊を抜きに現代短歌は語れない『O脚の膝』で鮮烈なデビューを飾った今橋愛さんですが、今は小説を書いたりしていて、第一歌集の頃とは違う感覚で創作をされているそうですが、自作短歌のほか、谷川俊太郎の詩を大阪弁にアレンジして朗読していたのが面白かった。

O脚の膝―歌集

O脚の膝―歌集


標準語だと気取ってるみたいで、そんな芝居がかった性格でもないからと自分のことを今橋さんは言っていて、小説も関西弁で書いているってことだった。短歌が標準語なのはちょっと気取ってるからだって言ってもいたけど、朗読のときはすこし関西弁がかっていて、たとえば、ちょっとした否定の言い回しでも、関西弁だと(それがどの地域の方言なのか関東人の私にはよくわからないけど)標準語の否定とは違うニュアンスが出るものだなあと思った。そうした響きのなかから、今橋さんの短歌は生まれていたのだなと思った。とつとつとした語り口だったけれど、自分の言葉にかかわる生理を隠さずに見せてくれているようで、作家の朗読としては極めて正しく、作品の魅力そのままの朗読になっていると思った。

書かれたものは、カタカナや漢字で声とは別のニュアンスが加わるし、そこで増える情報もあるわけだけど、音のイントネーションとか、仕草とか、文字には写しきれないものもあって、そうしたところに作家の原動力はあるかもしれないので、今橋さんの声と、きらきらした目と、かげりなく押し出してくる表情を見られたのは良かった。

雪舟えまさんは、アイヌ神謡集のカエルの話に自分の詩や短歌を織り交ぜた朗読作品と、Snellに発表した自作の短歌をいくつか選んで読んでいた。

アイヌ神謡集の朗読は、アイヌ語のリフレーンに日本語の詩や短歌が混ざっていく。これは、2004年9月に開かれた短歌のマラソン・リーディングで雪舟さんをはじめてみたときにも、聞いたものだった*1。そのとき一気に魅了されて、いつか雪舟さんの朗読を舞台にプロデュースしてみたいなんて思ったものだが、そのあとわりとすぐに朗読会を企画できたのが、今思うと、夢見たいな話だ。

朗読計画Ⅰ おそろしやつぼみというは - 白鳥のめがね

今回の「アイヌ神謡集」は、2004年のものと多少構成が違っていた気がする。この間に、雪舟さんも結婚されていたりもするし、その間に音楽活動を展開されていたりもするし、テキストに対する構えはだいぶ変わっているのだろうなと思う。

えまさんは、アイヌ神謡集とだけ原典の名を挙げて、そこからとりあげたという若者に魅了されて殺されてしまうカエルの神話の内容だとか、アイヌ神話における動物の神のありかたを語ったあとで、そのカエルの気持ちはとてもわかる気がする、という導入をおいて、朗読に入る。このあいさつと解説から朗読に入る呼吸は、2004年とまったくかわらないと感じる。でも、声は、今回の方が狭いお店の中だったこともあって、前回の方が集中度が高く、会場にかぼそく鋭く響き渡っていたようだったけど、今回は、わりと、かすれがちな弱い声が吐息のようにもらされているといった風情だった。

雪舟さんも、今橋さんも、朗読のパフォーマーとして魅力があるので、今橋さんはこんなに緊張するのはもういやだやりたくないとか言っていたけど、そのまま続けて欲しいと思う。

朗読会のあと、聞き手を交えてSnellのことや朗読のことに関するトークがあった。そこで、方言の話もあってあれこれ面白かったのだけど、雪舟さん*2が、「短歌集を出さないかとオファーがあるけど、自分の作品をきちんと残していないので散逸していてあわてた」と言っていたのが面白かった。
発表した作品は、どう受け取られようと自分の手を離れているので、関係ない、でも、歌集が一冊あると、名刺代わりに使えて便利なので、歌集はつくっておきたい。別に、まとめたいとか思わない、と言っていて、その作家としての潔さはすごいな、と思った*3

都内の私大の学生さんが、雪舟さんにあいさつして、勉強会で作品を読ませていただきたいとか話していた。最近文筆家として歌人としての活動がメジャーな雑誌にも露出するようになって、若いひとたちの間で雪舟さんのファンが増えているみたいだ*4

*1:このときは、「短歌ヴァーサス」誌2号の穂村弘特集に寄せて「まみからの手紙」を書いた雪舟えまさんってどんな人なんだろうと身構えていたのを思い出す。自分でも何か感想を書いていたと思ったけど、みあたらなかった。なんたること。当時の案内感想など。マラソンリーディング20042blog.jp

*2:ちなみに「ゆきふね」とえまさんは名乗っています

*3:あえて蛇足めくことを書いておくと、自分の作品に恋々として、作品を積み重ねることで作家としての地位を固めるみたいなことをするひとも世の中には多いように思うけど、そういう人とは全然違う潔さだとおもう

*4:作家として次のことをしたい今橋さんが上京してまず格闘する相手に選んだのが雪舟さんだったというのも、それなりのタイミングと可能性の読みがあるということなのだろうなと思う。