演劇ユニット「.5」の『ダブル』

.5(てんご)の『ダブル』を見に行った。吉祥寺のハモニカキッチンの屋上テラスで上演という企画。一度、あそこで飲んだことがあったので、改めて親しみ深い時間だった。

澄井葵さんとは岸井大輔さんのワークショップを一緒に受けたのをきっかけに、岸井さん周辺であれこれと会う機会も多くて、この日も打ち上げのあとにいろいろ話したりもしているので、そういう個人的な付き合いが前提にあるということをあらかじめことわっておいた上で、思い出すことを書いておきたい。

出演はひょっとこ乱舞の女優である笠井里美さん(小柄でショートカット、丸顔)とタカハシカナコさん(ちょっと恰幅がいい感じでどっしりした、陽気なキャラクターを感じさせる)の二人で、なかなか好対照だった。

役者二人も気分はオープンカフェといった感じのハモニカキッチンのテーブルに腰掛けていて、まるで観客と同じテーブルを囲んでいるみたいな印象。吉祥寺の裏側のトタン屋根が並ぶような屋上が見えて、猫が屋根の上を渡って行ったりする。春の西日がまぶしく照らしていて、日焼け止めが提供されたりもした。

開演のときにも、観客にそれぞれの役者が自分のプロフィールを語るみたいにして、自分の名前の由来を説明するように話し始めた内容が、自分の幼少期の思い出を語るようなのだけど、どことなく非現実的で、気がつくとその語りがもうフィクションの世界を描いているという風だった。

それぞれの役者の語りが、やがて、それぞれてんで勝手に話すうわごとのように重なり合っていって、ハモニカキッチンの狭いテラスは意識の焦点があわないようなぼんやりとした場所になっている。

それぞれの話は、どこかそれぞれの役者の身の上話みたいでもあるのだけど、小声で二人がお互いに聞いてないように内にこもった語りを続けていくと、観客としてもなんとなく注意が散漫になっていく風だった。

この作品では、声だけの出演で伊東沙保さんとチョウソンハさん。これは、iPodに入れたファイルを澄井さんがそれ用の卓上スピーカーを手に持って流していたけれど、それが散漫になった舞台にとても良いアクセントを与えているようだった。伊東さんとチョウさんの声は、ちょっとテンション高すぎなくらいで、語っている内容も初潮とかに関するちょっとエグイ話でもあって、散漫に身の上話調の話が続いていた空気がそこで一変した。

その音声が流される間にも、二人の役者の話は続いていて、はじめ座ったまま話していたのだけど、笠井さんが立ち上がって、テラスのフェンスによじ登ったりとか、ちょっと大きく動いたりする場面もあった。

語りの内容も、ラグランジュ点がどうのといったすこしダイナミックなものになっていって、二人の語りが、ぼんやりとすれ違いながら、どこかで斜めに対応するみたいな、上の空で意味を取り違えながら進む対話のように、かみ合わないけど言葉は交換されていくような展開になった。

佐々木透さんのテキストも、淡々としているようでいてメリハリがあるようで、日常会話の範囲を微妙にはみ出るかはみ出ないかといった領域をふらふらと辿る曲折のある文脈を、繊細にそれぞれの役者が形にしていっているようだった。

と、抽象的な描写に終始してしまったのは、テキストが繊細で記憶しきれなかったからで、上演台本を文字で目を通してみたかったと思う。

あまりに繊細すぎてまだ人目に触れるには早いという気がしないでもないけれど、そういう繊細さを失わずに、もっと人目に触れても負けないしなやかさを磨いてほしいなあという感想を持って帰った。

「ダブル」 | お腹痛くて2ステップ